2012年2月アーカイブ

 英語版Wikipediaの"Rosenhan experiment"項目の拙和訳です。日本語版Wikipediaには項目がなかったので訳してみました。注釈および 関連項目、外部リンク、参照については割愛しています。


ローゼンハンの実験

ローゼンハンの実験とは、1973年に心理学者のデイビッド・ローゼンハンによって行われた、精神医学的診断の有効性に関する有名な実験のことである。これは雑誌『科学』において「狂気の場所で正気でい続けること」と題され発表された。この研究は、精神医学的診断に対する重大で影響力のある批判だと考えられている。

ローゼンハンの研究はふたつのパートにおいて実施された。第一のパートは、合衆国の色々な位置の5つの州の内にある12の精神病院への入院の許可を得るために、一時的に幻聴のふりをした健康な協力者、すなわち"ニセ患者達"(女性3人、男性5人)の活用に関している。全員が精神疾患であると診断され入院を許可された。入院が許されたあと、ニセ患者達は正常に振る舞い職員に彼らが気分が良くもはや幻聴も経験しないことを伝えた。病院職員はひとりのニセ患者を探り出すことにも失敗し、代わりにすべてのニセ患者達が進行中の精神疾患の症状を示していると信じた。幾人かは数ヶ月に亘って監禁された。退院の条件として、精神疾患を持っていることを認め、抗精神病薬の服用に同意することを、全員が強制された。第二のパートは、反発した病院がローゼンハンに対してニセ患者をその施設に送るよう、それで職員が彼らを探り出すだろうと、挑発したことに関している。ローゼンハンはこれに合意したが、翌数週間の新しい患者193人の内から、職員は41人を潜在的なニセ患者として認定して、そのうちの19人は少なくとも1人の精神科医および1人の他職員に容疑を持たれた。実のところ、ローゼンハンはただのひとりもその病院に送り込んではいなかった。

この研究は、「我々が精神病院において狂気から正気を区別することができないことは明白だ」と結論し、精神障害施設における非人間化とラベリングの危険についても明らかにした。精神医学的なラベル付けよりも、特定の問題や行動に集中する地域精神衛生施設の利用が解決になるかもしれないと示唆し、精神医療従事者の施設における社会心理学的な意識を高めさせる教育を勧めた。


目次
1 ニセ患者の実験
2 存在しない詐称者の実験
3 インパクトと論争
4 類似の実験
5 関連項目
6 外部リンク
7 参照


ニセ患者の実験

ローゼンハン彼自身と8人の精神的に健康な協力者達は、「ニセ患者」と称すわけだが、アポイントを求め幻聴のふりをすることで精神病院への入院許可を得ることを試みた。病院職員はこの実験のことは知らされていなかった。ニセ患者達には、心理学の20代の大学院生、小児科医、精神科医、画家と主婦が含まれていた。だれひとり精神疾患の履歴はなかった。ニセ患者達は偽名を使い、精神衛生分野で働く人達は何らかの特別な処置や調査を誘発することを避けるため別の分野の偽の職業を与えられた。名前や職業の詳細を偽ることを別にすれば、より深い経歴の詳細は真実が報告された。

初めの精神医学的評価の間、彼らは患者として、しばしば不明瞭に、しかし単語の"empty""hollow""thud"だけを発音するように、同性の声が聞こえると訴えた。これらの単語は、彼らがある種の存在の危機を漠然とほのめかすものとして、また、それらを精神病の症状とするどんな既刊文献もないことから、選択された。それ以外の精神医学的な症状は主張されなかった。もしも承認されたなら、ニセ患者達は「普通に行動する」ように、また気分爽快でもはや声が聞こえないと報告するよう、指示されていた。実験後に入手された入院記録には、全部のニセ患者達が友好的で協力的であると職員により特徴付けられていた。

合衆国各地にある12の異なる精神病院に対する全員が入院を許可されたのだが、これには、田舎にある寂れて資金不足の公立病院や、素晴らしい名声を持つ都市の大学病院、また高額の費用のかかる個人病院1施設が含まれている。同じ症状を表したのだが、11人が公的病院において統合失調症と診断され、1人は私立病院において、良好な臨床転帰からより軽い診断として、躁鬱病を伴っているとされた。彼らの滞在は、7日から52日の範囲に広がり、平均すると19日となった。全員が統合失調症が「寛解」したという診断を伴って退院したが、これをローゼンハンは、精神障害が治癒可能な病気ではなく一生の烙印となる不可逆の状態として認識されている証拠として採用する。

職員や他の患者に関する多数のメモを一貫して公然と取っていたにもかかわらず、また他の精神病患者達の多くが彼らを詐称者だと見抜いていたようなのだが、ニセ患者達の誰も病院職員によって詐称者であると見抜かれることはなかった。最初の3件の入院で、全患者118人のうち35人が、ニセ患者達が正気であるとの疑いを表明したが、幾人かはその患者が病院を調査している研究者あるいはジャーナリストであると示唆していた。

病院側の記録は、職員がニセ患者の多くの振る舞いについて精神医学用語で解釈していたことを示している。例えば、ある看護婦はニセ患者がメモを取っていることを「記述行為」と分類し病的なものだと判断していた。その患者の普通の経歴は、病院記録内においては、原因論でそのとき優勢だった理論に従って、統合失調症であることが期待されるラインに沿うよう書き直されていた。

ニセ患者達は病院に彼らを解放させるようしむける自力退院を要請されたが、ニセ患者達が自由意志ですぐに退院するなど金輪際ないだろうことが明白になった時、緊急事態を予想して弁護士が雇われた。一旦入院許可が下り診断が下ると、ニセ患者達は彼らが精神疾患であり抗精神病薬(彼らはそれをトイレに流していたが)を摂取し始めることを精神科医に同意するまで解放を得られなかった。職員は誰もニセ患者達が彼らの薬をトイレに流していることに気付かなかったので、彼らがそうしているという報告もなさなかった。

ローゼンハンと他のニセ患者達は、圧倒的な非人間化の感覚、激しいプライバシーの侵害、そして入院している間の退屈について報告した。彼らの持ち物は不規則に点検され、また彼らは時にトイレを使っている時も監視された。職員が善意のように見えるとしても、彼らは一般に患者を物体化・非人間化し、あたかも患者達がそこに存在しないかのように眼前で長々議論することが度々あり、公務を遂行するに当たりどうしても必要な場合以外は患者との直接の交流を避けた、と彼らは報告している。世話係の何人かは、他の職員がいない時に、患者に対する言語あるいは身体的な虐待をする傾向にあった。カフェテリアの外で早くからランチを待っている退屈な患者グループは、ある医師によって彼の学生に「口唇欲的な」精神疾患症状を経験していると言われていた。医師との面談は平均して一日に6.8分だった。

「友達にも家族にも言っていたんですよ、『出られる時に出られる。それだけのこと。向こうには2日間いるつもりでそしたら出てくる。』って。あそこに二ヶ月もいるだろうなんて誰も分かりはしなかった...。唯一の出口は、彼ら[精神科医達]が正しいと指摘することだけ。彼らは私を狂っていると言っていた。『私は狂っています。でも快方に向かっています。』それは、私に関する彼らの見解への肯定だった。」デイビッド・ローゼンハン BBC番組『罠』より


存在しない詐称者の実験

この実験のために、ローゼンハンは著名な研究病院や大学病院を使ったのだが、これらの職員は最初の研究の結果を聞き及んで同様の間違いが彼らの施設では起こりえないと主張したのである。ローゼンハンは、三ヶ月間にひとり以上のニセ患者が承認を受けることを試み、病院職員は来院する患者を詐称者である可能性において評価するよう、彼らと話を付けた。193人の患者から、41人が詐称者であると判断され、更に42人が注意人物であると判断された。現実においては、ローゼンハンはひとりのニセ患者も送り込まず、病院職員から嫌疑をかけられたすべての患者は通常の患者達だったのだ。このことは、「このように巨大な過誤にあまりに安易に加担してしまうどの診断手法も非常に信頼できるものではあり得ない」という結論を導いた。他の者による研究でも同様に問題のある診断結果が見出された。


インパクトと論争

ローゼンハンは自身の研究成果を『科学』に載せ、精神医学の診断の信頼性と、研究の協力者により体験された患者治療の本質に対する骨抜きと貶めを批判した。彼の論文は論争の爆発を生んだ。

多くが精神医学を擁護し、精神医学の診断は大部を患者の経験の報告に依拠しているので、彼らが存在を偽ることは、他の医学的症状について嘘を吐くことに比べれば、精神医学的診断の問題をよく明らかにしはしない、と述べた。精神科医ロバート・スピッツァーは1975年のローゼンハンの研究に対するケティの批判をこんな風に引用した。

仮に、私が1クォートの血を飲んでそのことを隠し、どこかの病院の緊急治療室に行って血を吐いたなら、職員の振る舞いはたやすく予想できるだろう。もし彼らが出血性消化器潰瘍として私を分類し治療したとしても、医学が症状をどのように診断するか知らない、などと説得できるとは思えない。

ローゼンハンはこれに対し、もし潰瘍に関するそれ以外の症状がないのに彼らがあなたを数週にわたってなお潰瘍だと考え続けるとしたら、それは大きな問題を生み出すでしょう、と答えた。


類似の実験

アメリカ人の調査ジャーナリストであるネリー・ブライは1887年に精神病院への入院許可を得るため精神疾患の症状を装い、そこのひどい環境を報告した。成果は『狂気の家の10日間』として出版された。

モーリス・K・テマリンは25人の精神科医をふたつのグループに分け、役を演じている正常な精神の俳優の話を聞かせた。一方のグループにはその俳優が「神経症患者に見える非常に興味深い人物だが実際まったくの精神病者である」と聞かせ、もう一方には何も伝えないままにした。前者のグループの60%が精神病と診断し、統合失調症が最多だったのだが、もう一方の制御グループでは誰もそうしなかった。

1988年には、ローリングとパウエルが、290人の精神科医にある患者のインタヴューの写しを配り、半分にはその患者が黒人であると伝え、もう半分には白人であると伝えた。「臨床医達は、白人患者に対する事例研究と同じ事例研究であっても、凶暴性・不審さ・危険性を黒人患者に帰すように思われる。」という結果を結論とした。

サイエンス・ライターのローレン・スレイターは、2004年に出された彼女の著書『スキナーの箱を開ける』のために、非常に似た実験を実施したようだ。彼女は9の異なる精神科救急室に幻聴により現れ、「ほとんど毎回」心因性鬱病の診断を受けることになったと主張している。しかしながら、実際に彼女の実験を実施したという証拠を供するよう異議申し立てを受けたとき、彼女はできなかった。

2008年には、BBCの科学番組であるホリゾンで、『どの程度あなたは狂っているか?』と題された2回にわたる放送分で若干関係のある実験が行われた。実験は10人の被験者が関与し、5人は予め診断されたメンタルヘルス状態で生きている人々であり、5人はそのような診断は受けていない。彼らは、3人のメンタルヘルス診断における専門家に観察され、その調査はメンタルヘルス問題を持つ5人を特定することになった。この専門家達は10人の患者の内でふたりを正しく診断、ひとりの患者を誤診し、ふたりの健康な患者をメンタルヘルス上の問題を持つとして誤って特定した。


関連項目

(省略)


外部リンク

(省略)


参照

(省略)

(Translated from the article "Rosenhan experiment" on Wikipedia)

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