自己愛憤怒と自己愛損傷

 日本語版Wikipediaに『自己愛憤怒』のページはあるのですが、やや物足りなかったので当該英語版を訳してみました。特に、自己愛憤怒は基本的にコフートの用語なのに、なぜかまったくそのことに触れていない...。
 今回は分量は少ないのですが、日本語にのらないセンテンスが多く、いつも以上に拙訳です。
 『自己愛損傷』およびそのエピゴーネンの訳名はだいたいで捉えてください。
 あとフロイトのところはおとぎ話みたいなもので特に読まなくてもいいかも。フロイトは現代でもなお再解釈の対象としての価値を持っているとしても、彼の解釈を今でもそのまま適用している治療者はほぼ存在しないのではないかと思われます。しかも再解釈はかなり高度な作業で素人が手を出す分野ではない?
 『自己愛憤怒』の概念は、人類が日々生み出している暴力における、ひとつの起源を提示している可能性があります。


自己愛憤怒と自己愛損傷

自己愛憤怒とは自己愛損傷へのリアクションのことであるが、自己愛損傷とはナルシシストの自尊感情あるいは自己価値に対する、感受された脅威のことである。自己愛損傷(or自己愛傷痕)はジクムント・フロイトによって1920年に使われたフレーズで、自己愛創傷および自己愛打撃は程度がそれ以上であって、相互にほぼ代替可能な用語である。自己愛憤怒はハインツ・コフートによって1972年に新作された。
自己愛憤怒は、超然としている場合や苛立ちや困惑の表出から、暴力的攻撃を含む深刻な感情爆発までの連なりの上に立ち起こる。自己愛憤怒反応は、人格障害に限らず、カタトニーや偏執性妄想および鬱病のエピソードの中にも見られる可能性がある。これはナルシシストが二層の憤怒を持っていることを示してもいる。憤怒の第一層は(ほかの誰かに対する)持続的な怒りとして考えられ、そして自己を標的とする怒りである第二層を伴う。

1フロイトと自己愛打撃
2さらなる精神分析的展開
3コフートと自己心理学
4完全主義
5セラピー
6批判
7文化的関連
8関連項目
9参照
10参考文献
11外部リンク

フロイトと自己愛打撃
1914年の『狼男』の症例研究でフロイトは、後期の大人になってからの神経症の原因を、『彼は、彼の淋病の感染が彼の身体の深刻な傷になると考えることを強いられた。彼のナルシシズムに対するこの打撃が彼にとって過大なものであり、彼はバラバラになった。』時点であると識別した。数年後、「快感原則の彼岸」においてフロイトは、幼児性欲への不可避的な退行から判断して、「愛の喪失やしくじりがそれらの背後に自愛に対する恒常的な損傷を自己愛傷痕の形で残す、...彼が『嘲笑』されたところの最大限の反映によって」と主張した。1923年に彼が付け加えたのは、「吸った後の母親の乳房が失われる経験から、また大便の日常的な引渡しからの、身体的喪失を通すことによって自己愛損傷の着想を獲得する」―喪失はその後「この喪失の着想が男性器に結びついた」時に去勢コンプレックスに流れ込む。一方で1925年には彼はよく知られているように、「女性が彼女のナルシシズムへの傷に気付いたのちに、彼女は傷痕のように劣等感を発展させる」とするペニス羨望に関して付け加えた。

さらなる精神分析的展開
フロイトが彼の最晩年の著書で『自己に対する早期の損傷(自己愛に対する損傷)』と呼んだものは結果的に幅広い様々な精神分析家によって拡大された。カール・アブラハムは大人の抑鬱のキーが、自己愛備給の喪失を経由したナルシシズムに対する打撃の幼児体験にあるとみなした。オットー・フェニシェルは抑鬱における自己愛損傷の重要性を確認し、境界性人格を包含するためにその分析を拡大した。
エドムンド・バーグラーは、ナルシシズムにおける幼児的全能感の重要性と、自己愛的全能感への何らかの打撃のあとにくる憤怒を強調した。また一方で、ラカン派は、自己愛創傷におけるフロイトを自己愛的鏡像段階におけるラカンに結びつけた。

コフートと自己心理学
コフートはその独創性のある論文『自己愛と自己愛憤怒に関する考察』(1972)の中で広範囲の見聞を調査した。彼は、自己愛憤怒が、成熟した攻撃性を伴うそれとは対照的な多くの形式の中のひとつの主要な形式であると考えた。まさに自己の構造それ自体がナルシシストの中では弱められているので、彼らの憤怒は現実的な自己主張には結びつかないのであり、自己愛憤怒をもたらす感知されるか想像されるかした自己愛損傷に対して、過敏になる傾向が彼らには残されるのだ。
コフートにとって自己愛憤怒は、情況に対するナルシシストの全面的なコントロールの欲求に結びついているが、「復讐、過ちの是正、あらゆる方法による苦痛の取り消し、への欲求」を含み込んでいる。これは、受動的な犠牲化の感覚を他者に痛みを与える能動的役割に替えるための、ナルシシストによる試みであり、同時に自身の(本当はいつわりである)自己価値の感覚を再建する試みである。これは自己防衛・保存をも包含しうるが、ナルシシストを脅かすものを破壊することでもたらされる安寧と力の感覚の、再生に寄与する憤怒を伴う。
あるいは、コフートによると、憤怒は失敗に直面したときの羞恥の結果とみなしうる。自己愛憤怒は、ナルシシストの自尊感情や自己価値への脅かしである自己愛損傷によってもたらされるところの、制御不能で予想外の怒りなのである。憤怒はいろいろな形で起こるが、すべてにひとつの重要な事項の「復讐」がつきものである。自己愛憤怒は、恐怖に基礎を置くが、脅威が去ったあとも持続するだろう。
ナルシシストにとって憤怒は、彼らを侮辱したと感じる人物に向けて方向付けられるが、他者にとっては憤怒はつじつまの合わない不当なものである。この憤怒は彼らの認知を損ない、それゆえ彼らの判断を損なう。怒っている間、彼らは叫び、事実を歪曲し、根拠のない批判をする傾向がある。著書『自己の分析』で、コフートは、思うようにいかないことの感覚を原因とする表現が憤怒に発展するのだが、ナルシシストは痛みや苦しみを和らげる方法を見つけるため、対立を捜し求めさえするだろう、と説明している。

完全主義
ナルシシストはしばしば見せかけの完全主義者であり、注目の的であることを求める。彼らは注意が向けられるシチュエーションを作り出す。完全であろうとする彼あるいは彼女の試みは、ナルシシストの誇大な自己イメージに結合している。もし認知される完全状態が達成されなければ、それは罪悪感や羞恥、怒りや不安を導きうる。なぜなら、もし彼あるいは彼女が完全でないなら、彼あるいは彼女は、他者からの賞賛と愛を失うだろうと信じているからである。
このような完全主義の背後に、自己心理学は誇大自己へつながる早期におけるトラウマティックな傷を見るだろう。

セラピー
アダム・フィリップスは セラピー治療は、常識による期待とは反対に、基礎的な『人生の現実』によって惹き起こされる全能感喪失の進行と折り合いをつけ、またそれを学びなおすために、患者が「自己愛の恐ろしい傷(その子供が持つ両親からの排斥の経験)」を再体験するよう仕向けられることを伴うのだ、と主張した。

批判
コフートのコンセプトの広い普及は、時にその陳腐化につながるかもしれない。ネビル・サイミントンは「あなたは人々がこんな風に言うのを聞くだろう。『ああ、私はとてもナルシシスティック』あるいは『私の自己愛に傷がついた』。このようなコメントは、たいして意味のない台詞であり、本来の状態に対する正しい認識ではない。現に自分の中の自己愛を認識するということは、深い苦悩を強いるものなのだ」と指摘した。

文化的関連
市民ケーンの主人公は自己愛憤怒を表出していると考えられている。

関連項目
(省略)

参照
(省略)

参考文献
(省略)

外部リンク
(省略)

(Translated from the article "Narcissistic rage and narcissistic injury" on Wikipedia)

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コメント(4)

はじめまして、こんにちは。tsuruと申します。
カーンバーグや自己愛憤怒などについて貴重な翻訳ありがとうございます。大変助かりました。

もし可能でしたら、翻訳された記事をwikipediaに投稿して頂くことは可能でしょうか?これほどの完成度の翻訳は、多くの方の助けになると思います。wikipediaには翻訳の際に履歴継承義務があるのですが、とても簡単な手続きです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:翻訳のガイドライン

当方ただいまカーンバーグの翻訳に着手しようと考えていたところ、こちらにいきつき、その精度の高さに驚いた次第です。ご検討して頂けましたら幸甚に存じます。

あれ?表示されない。きちんとコメント送れるのかな・・・

てすと

tsuruさんコメントありがとうございます。
 私の拙訳はあくまで興味がある方の参考になればいいなと思い、フェアユースを目的として行っているつもりのものです。翻訳精度に自信があるわけではないので、どなたかの下訳に利用していただけるならむしろ光栄です。私の訳は、下訳として自由に手直し利用して頂いてまったく構いません。ただ、このままでWikipediaに載せるのは個人的に気が進みません。ごめんなさい。
 翻訳対象の版については、特に注意書きがない場合は、原則としてエントリー投稿日直近の英語版に依拠して訳しています。下訳として利用するにも履歴継承が必要なのだとすれば、エントリーの投稿日を目安に各Revision historyから辿ってくだされば翻訳元の版を容易に発見できると思います。
 ただ、こちらとしましても近日中に、最終行の翻訳元リンク(Translated from ~)をRevision history内の該当版へのリンクに補正しておきます。
 最初からそうすべきだったかもしれません。恐縮しております。

早々のご返信ありがとうございます。

了解致しました。それではお言葉に甘え、ありがたく下訳として利用させて頂こうと思います。翻訳精度は全く問題のないものですのでご安心下さい。現今の状況では精神医学領域は翻訳・執筆できるユーザー数が絶対的に不足しており、各個人がほそぼそと活動している状況です。いつかpurplebabyさんの編集に出会えることを楽しみにしています。

草々 tsuru

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https://me.yahoo.co.jp/a/0RED1yllUav9FGRHu8q0NSsY2A_ZrpnmsQ--#7a427≫早々のご返信ありがとうございます。 了解致しました。それでは… (1213)

purplebaby≫tsuruさんコメントありがとうございます。  私の拙訳はあ… (1213)

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https://me.yahoo.co.jp/a/0RED1yllUav9FGRHu8q0NSsY2A_ZrpnmsQ--#7a427≫はじめまして、こんにちは。tsuruと申します。 カーンバー… (1212)

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