Noli me tangere

 新約聖書の中にマグダラのマリアが売春婦であるとの記述を探したことのある人はいると思うが、私も探したことがあるのだけど発見できなかった。のちに『マグダラのマリア―エロスとアガペーの聖女 (中公新書) 岡田 温司 』を読んで、彼女は七つの悪霊にとり憑かれていただけで特に売春婦であると明記されているわけではないと知った。あえて挙げれば、マグダラのマリアは、復活し(かけ)たイエスの体に触れ(ようとし)て叱られる記述があり(ヨハネ20:17)、多少はそれっぽい??

 イエスは基本的に罪を犯した女性に優しいが、姦淫の罪で捕らえられた女が石打ちの刑に処せられようとしている時に、「あなた方の中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい。」(ヨハネ8:7)とのたまう。
 しかし、このロジックはやや極端で危険な面もあるかもしれない。罪の軽重やその過去と現在を混同しているからである。

 私はいわゆる従軍慰安婦問題に特に強い関心があるわけではないのだが、思い出してみると、いつか沖縄の米兵が強姦事件を起こした直後に朝日新聞だかがなぜか急にこの問題を掘り下げだしたのに気付いて奇妙に思い、「高まりそうな反基地感情を沈静化するために旧日本軍の類縁する問題を持ちだして大衆の心理的バランスを取ろうとしているのではないか」というような憶測を抱いたことがあった気がする。むろん、この憶測(歴史問題を米兵の粗相と両天秤に掛けさせ心理的な相殺を狙っている説)にはなんの証拠もなく上記の出来事も単に偶然にすぎないのかもしれなかったが、もしかするともしかするかもしれない、と私は今でも思っているところがある。言うまでもないが、なぜ朝日新聞がバランサーの役割を担って(担わされて)いるかとかの説明も特にできるわけではない。
 いずれにせよ、私の『慰安婦問題』に対する印象の根っこには、沖縄の米兵の強姦事件が隣接している。本当に関係があるかないかは、不明である。

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