岩波の古い新書『日本の近代小説』中村光夫を読んでいてゾラの系譜からなる自然主義について小杉天外の印象的な言葉があったので引用。
「自然は自然である。善でも無い、悪でも無い、美でも無い、醜でも無い、たゞ或時代の、或国の、或人が自然の一角を捉へて、勝手に善悪美醜の名を付けるのだ。小説また想界の自然である。善悪美醜の孰(いずれ)に対しても、叙す可し、或は叙す可からずと羈絆(きはん)せらるゝ理窟はない。」 (明治三十五年「はやり唄」序)カントの物自体のような自然と創作の自然を並行的に、或いは通底するものとして捉えている。天外の素朴かつ原初的な思想的態度が窺えておもしろい。
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