『狂気の歴史』 ミシェル・フーコー
まず、翻訳はあまりよくない。
600ページの大部からなる古典だが、歴史書としての学術的な批判を試みるつもりは毛頭ない。
フーコーは精神医学の素人として、狂気の歴史そのものを考察するのではなく、むしろその周囲をぐるぐる旋回している感じ。また、エポックを追いながら一貫して狂気概念の相対化に含みを残している。なんというか全体を通して『精神病は人為的に作られたのだ』と言いたげなのだ。同性愛者だったフーコーはどちらかというとマイノリティの側に立ってものを言う傾向があるだろうと思うが、この作品を著すに当たっての彼にも、太陽に憧れるようなその種の人々による暗い欲望を感じないでもなかった。
或る精神的な病にある者の狂気を、そうでない者が、同じ病に罹ることなしに共感することはできない。それなのに、フーコーはその不可触の部分を想像力の敷衍で無理に補完しようとするため、どうしたってディテールにおいて的外れにならざるをえない。
確かに、「理性-非理性」の対立を、古典主義時代の医学的「理性」による笑い話のようないい加減な治療法や解釈を見たあとでは、素直に想定しがたい面があることは否定しない。完全な理性を持ち得ない以上、「正常な」側の人間も決して真には正常などではないのだ。
大多数と似たように欠けた人々が健常者と呼ばれ、より欠けた(orいびつに欠けた)人々が狂人と呼ばれるだけのことかもしれない。誰もが「欠けて」いることとして変わりはないと言えば言えるのかもしれない。
理性-非理性
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