アメリカの人気コメディアンのスティーブン・コルベアの英表記はSteven ColberとかではなくStephen Colbertらしく、かなり変わっている気がする。本人はフランス系だとうそぶくこともあるようだが本当はアイルランド系らしく、それにしても発音に比して何だかよくわからない綴りだ。しかしStevenにせよStephenにせよ、この感じの名前は新約聖書の最初の殉教者であるステパノにちなんでいる可能性が高いのではないかと思う。
ステパノはギリシャ語が話される地域で、そこに住むユダヤ人を倫理的に非難する長い演説をぶった終わりに、開けた空におわす神の右側にイエスが立っているという主旨の禁句を言って(使徒8ー56)、人々を恐慌状態に陥れ激憤させる。そののち死刑に処せられる。
人が自分の名前の含意にどれだけ引きずられるかというのは、顕在意識と潜在意識の中間みたいな話でかなりよくわからないわけだけれど、今のスティーブン・コルベアを一躍有名にしたのは、2006年当時大統領任期真っ只中だったジョージ・W・ブッシュのほんの眼の前で彼を批判した(おちょくった)事件であり、このことが聖人ステパノの所行といくらかなりとも重なってこなくもない気がするのは私だけであろうか。
彼の演説の皮肉やジョークをすべて理解できる人がどれだけいるか分からないが、上のリンクの動画は字幕もついているので設定して読みながら視聴したけれど、私はほとんど自信がない。ただ、印象に強く残るのはブッシュJr.の本を読まない習慣を褒め殺している箇所だ。本は英語ではもちろん"book"だが、これを先頭大文字にしただけで聖書の意味になる。そうでなくても、ブッシュJr.が『本を読まない』ということは、単に勉強ぎらいとかそんなことだけ意味するのではない。それは聖書を読まないという意味を包含すると思う。
ブッシュJr.を眼前でねちねち皮肉りつづけるコルベアの落ち着き払った態度は、肝が据わっていると表現するか、芸人としての野心に満ちていると表現するか、そのいずれもかもしれないが、少なくとも信仰の炎が一定の寄与をしていたのではないかと憶測する。
追記(2016/10/30):
このエントリーを書いた時は、福音派(聖書原理主義)に支持されるブッシュ自体が本を読まないということに笑いの潜在ポイントがあるのかなとぼんやり思っていたのだが、一方のコルベアはカソリックらしくて、一般にカソリックは個人的な解釈を避けるために頻繁には聖書を読まないみたいなので、自分を棚に上げてあてこするのはやや不自然なことかもしれない、と最近気付いた。まぁ、コルベアがカソリックであることを知っている人はこの演説の時点ではほとんどいないに違いないので微妙だけど。よくわからない。
このエントリーは半分(以上)冗談の深読みだけど、改めて英語圏の文化的背景を把握するのは並大抵じゃないなと。
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