ディスチミア

 英語版Wikipedia内の"Dysthymia"の項目の和訳です。外部リンクや補足・参照等の訳は省略しています。ディスチミア自体の訳語としては「気分変調症」があります。広義における鬱病の一種であるようです。"Dysthymic Disorder"とほぼ同義に捉えられているようです。
 近年、雅子妃を巡る一連の報道で「ディスチミア親和型鬱病」なる用語が新型(!)鬱病の名として流布しました。現代の日本の若者に特徴的な鬱病なんだそうですが、ディスチミアという言葉自体は少なくとも古代ギリシャからあるようです。無論、日本の学者(樽味伸)が言い出したのは、あくまで「~親和型」なのでディスチミアそのものとは違うのでしょうが、何を意味してるのかいまいちはっきりしません。単にある種のパーソナリティー障害に伴う抑鬱状態(or軽度鬱病)を表現しているだけなのではないかという疑念を、私は初めて用語を知った時から持っているのですが、まだあんまり払拭されません。
 まあ、そのことはどうあれ、以下が「ディスチミア」単独の説明になります。


ディスチミア

ディスチミアは慢性気分障害のことであり、鬱病の範囲に入るものである。慢性鬱病の一つと考えられているが、大鬱病に比べて重篤性は低い。この障害は慢性的であり、長く続く病気である。

ディスチミアは軽度鬱病の一つのタイプである。ハーバード保健出版局は、「ギリシャ語であるディスチミアは『心の悪い状態』や『不機嫌』を意味している。臨床的鬱病の二つの根本形式の内の一つとして、それは通常大鬱病より少ないか軽い症状を持つが、より長く続く。」と述べている。ハーバード保健出版局は、「少なくともディスチミア患者の3/4は慢性的な身体疾患か、不安障害や薬物嗜癖またはアルコール依存症のような他の精神障害も持っている。」と言っている。プライマリケアジャーナルは「人口の約3%がディスチミアに罹っており重大な機能障害と関連している。」と述べている。ハーバード保健出版局は「ディスチミアの人々の家族の鬱病率はこの早発型障害の50%に当たる。」また「ディスチミアの人々のほとんどは自分が最初に鬱病になったのがいつなのか正確に言えない。」と言っている。

1.症状

ディスチミアは、大鬱病に特徴的な症状の多くを共有する、慢性(長く残る)型の鬱病である。しかしながら、これらの症状はどちらかというと軽い傾向にあるが、激しく変動する。診断されるには、右の症状の内2つ以上を、少なくとも2年間に亘ってそうでない日より多くまた日の殆どにおいて、大人が経験していなければならない。

・絶望感
・不眠または過眠
・集中力欠乏あるいは決断の困難
・低活力あるいは疲労
・低い自己評価
・乏しい食欲か過食
※これらの症状は『躁病、軽躁病、双極性障害に一般的に関連する混合エピソード』によるものを除く(もしこれらのエピソードを経験しているなら、気分循環症かもしれない)。

ディスチミアの人々は大鬱病に発展する可能性を平均よりかなり高く持っている。流動的症状の激しさは大鬱病の十全なエピソードを誘発しうる。よくあるような低調な気分の感じを伴って激しいエピソードがあるので、この状況は時々「二重鬱」と呼ばれる。

ディスチミアは慢性障害なので、もし仮に診断が存在するなら、そう診断されるまでしばしば何年にも亘って症状が経験されているかもしれない。結果として、彼らは鬱病が彼らの個性の一部だと信じる傾向がある。これは、それ以降、その症状に関して医師や家族や友達と話し合うことすらしない患者に通じるかもしれない。

ディスチミアは、大鬱病に似て、家族に及ぶ傾向がある。男性より女性の方が2~3倍よく起こる。幾らかの患者は慢性的なストレスの下にあると記述している。診断を受けた人を治療する際、彼らが普段から高いストレスの下にあるかどうか、あるいは、ディスチミアが標準的な環境で彼らに更なる心理的ストレスを与える原因になるかどうか、見分けるのがしばしば困難である。

2.診断基準

アメリカ精神医学界が出版する『精神障害の診断と統計の手引き(DSM)』は、気分変調障害(Dysthymic disorder)の特徴を明らかにしている。本質的な症状としては、少なくとも2年に亘り日の殆どで抑鬱を感じていることを必要とするが、大鬱病に必要とされる基準は除かれている。低活力、睡眠や食欲における障害、低い自己評価は同様に典型的に臨床像の一因となる。患者はしばしば診断以前多年に亘ってディスチミアを経験している。彼らの周囲の人々は患者が『単なる気分屋』だと信じるようになっている。以下の診断基準に留意してください。

①2年以上の期間の大部分で、またその一日の殆どにおいて、患者が抑鬱であると報告するか、他人に抑鬱であると見られている。
②抑鬱状態にある時二つ以上該当する。
 1.食欲の増減
 2.睡眠の増減
 3.疲労または低活力
 4.貧しい自己像
 5.集中力と決断力の減退
 6.絶望や悲観の感覚
 7.過度の筋肉痛、特に上背と足について
③この2年間で上記の症状が2ヶ月以上連続して不在ではないこと。
④このシンドロームの最初の2年間で、患者は大鬱病エピソードを持たない。
⑤躁病、軽躁病または混合エピソードを持っていない。
⑥気分循環性障害の診断基準を満たしていない。
⑦その障害がもっぱら(統合失調症や妄想性障害のような)慢性精神病の文脈において成立しているわけではない。
⑧症状が大方において一般身体疾患や処方薬を含む薬物使用に直接の原因を持たない。
⑨大鬱病とは対照的に、これらの症状は必ずしも臨床的に顕著な苦痛または、社会的、職業的、学術的、あるいは他の主要な機能分野においての障害を生じないかもしれない(APA, 2000)。ディスチミアに苦しむ人々は普通は日常生活(通常は確証をもたらすような下記の個別の日常作業による)にうまく対処する能力がある。
※幼児や思春期青年においては気分が過敏になり易いので、継続期間は、大人が診断のために2年を要するのとは異なって、少なくとも一年でなければならない。

3.治療

3.1薬物治療

大鬱病と違って、薬物治療はただ最後の手段であるべきだ。代わりに、患者がその性質を理解することでディスチミアへの対処法を学ぶといったようなことも含めて、精神療法に治療は主として基礎を置かれるべきである。

もし薬物治療が必要だと判断された場合、この障害に対して最も一般的に処方される抗鬱剤は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であり、これにはフルオキセチン(プロザック)、セルトラリン(ゾロフト)、バロキセチン(パキシル)、そしてシタロプラム(セレクサ)が挙げられる。SSRIは入手が簡単で古いタイプの抗鬱剤より比較的安全である。他に挙げられる新しい抗鬱剤は、ブプロピオン(ウェルバトリン)、ベンラファクシン(エフェクサー)、ミルタザピン(レメロン)、デュロキセチン(シンバルタ)、である。

しばしば違った二つの抗鬱剤が一緒に処方されたり、医師が抗鬱剤と組み合わせて気分安定剤や抗不安剤を処方するかもしれない。

3.2薬物の副作用

SSRIの幾つかの副作用としては、『性機能不全、むかつき...下痢、眠気や不眠、短期記憶の喪失、震え』がある。抗鬱剤は時々患者に効かない場合もある。そのような場合は古めの抗鬱剤、三環系抗鬱剤やMAOI、を試しうる。三環系抗鬱剤はより効果が強いが、悪効果も持っている。三環系抗鬱剤の副作用は、『体重増、口の渇き、視界不良、性機能不全、低血圧』である。

3.3精神療法

薬物療法と精神療法のコンビネーションが最高の改善をもたらす可能性があることは、幾つかの証拠が示している。その人にとって助けになる精神療法のタイプは、ストレスのたまる出来事の性質、家族やその他社会的な支援の利用可能性、個人的な好き嫌いなど、多数の要因に依拠する。セラピーは鬱病に関する教育を含む。サポートは必要不可欠だ。認知行動療法は分析し、誤った自己批判的な思考パターンを是正し、気分障害者が一般に経験する認識のゆがみを正すのを助けるよう設計されている。精神力動的、内省重視あるいは人間関係の精神療法は、重要な人間関係内での対立を整理し、症状の背後の歴史の探索に役立ちうる。

(Translated from the article "Dysthymia" on Wikipedia)

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