Amazonで一年以上前に買ったPete Walkerの「Complex PTSD: From Surviving to Thriving: A GUIDE AND MAP FOR RECOVERING FROM CHILDHOOD TRAUMA 」だが、概説にあたる第一部(全体の前1/3まで)はすぐに読んでかなりいい本だとは思ったものの、構成的に第二部が同趣旨の掘り下げだということで、なんとなく訝って長いことうっちゃっていた。
去年末から今年1月末あたりまでの読書の仏教ブームが頓挫したような感じになったため、それを補うような感じで本書の続きの第二部をそろそろと読み進め始めたのだが、思いのほかというか、読み始めると極めて面白く一日10ページ前後をほぼコンスタントに読み進めて昨日の20日には全335ページを読了してしまった。
Pete Walkerも本文中に何度か言っていることだが、CPTSDと愛着障害は内容として双方がかなりオーバーラップしている。私としては、これに旧来の対象関係論の一部を加えて、それらは全てほぼ同じことを問題にしていると言っていいのではないかと思ったりした。
いったい何にそんなに感銘を受けたのかは、個人的な事柄とつながるので詳述するつもりはないが、どこかの出版社がぜひ邦訳を出すべきだ。というか、本書は2013年の出版なのですでに邦訳が出ていないことがおかしい。
ただ、ネックはいくつか予想はできる。日本でCPTSDの概念がこれまで全く広まっていなかったこと。Pete Walkerが医師ではないこと(彼は日本で言えば心理療法士にあたると思う)。もう一つは僅かではあるがキリスト教的な風情が漂っているということだ。例えば、
のような箇所での「神」は一般的な日本人が想定する多神教的な(あるいは自然信仰的な)神とは意味が違う。こういう箇所は訳しづらいか、直訳したとしても伝わらない。本書は大まかに心的断絶のためのテクニックを伝授している面があるので、内的な孤独に耐える決意をする個人と一神教による超越神という組み合わせは非常に相性がよくしっくり来る。例えばこの「神」を大黒様とかに読み替えると、たぶん意味をなさないだろう。I want God's love, grace and blessing.(p.314)
しかしそれでも邦訳を出版すべきだと思う。Pete Walker自身がCPTSDであるとの前提で話が進んでおり、その上で彼が(心理療法士として)診ているクライエントの諸事例が交差する、CPTSDの生々しさが理解できるだろう。
Pete Walkerの本を読み進めながら、この時間がずっと続けばいいと思うような感じがあった。しかし終わりは来てしまった。実社会の普通の人々はPete Walkerとはかけ離れた視座で行動し生きている。また、Pete Walker自体も本当は個別の読者のことなど知らないから、彼は読者各々にとっての理解者と言うより、一般論として問題を認識している人と表現したほうがいいかもしれない。無論、そういう人物がこの世界のどこかにいると思うだけで随分違うことだが、読書の魔法から醒めるとそこには荒涼とした現実が広がっている。
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