ずいぶんまえ、斎藤学(精神科医)と大江健三郎が同席した何かのシンポジウムの中継で、共依存の超克について斎藤があれこれ述べたあとに、大江が「共依存でも別にいいじゃないですか」みたいなことを発言したのを覚えている。斎藤はそれで黙ってしまった。私は必ずしも大江が素晴らしい小説家だとは思っていないが、この発言には曖昧に賛同したい気もある。
大江は治癒する見込みの無い障害を持つ息子の光さんのことを念頭に共依存を「肯定」したのかもしれないが、ある程度なら、誰にでも当てはまることのようにも思える。パーソナリティーの偏りを多少矯正することすら難しい現状で、人はおろせぬ重荷とともにどこか共依存(でなければ何らかの嗜癖)的な部分を引きずって生きていかざるをえないかもしれない。
しかし、その上で私が留保したいと思ったのは、共依存でいいじゃないかと開き直ってしまう態度だった。治る見込みが無いから短絡的に共依存的帰結を肯定するのではなく、共依存を「乗り越えようとしていること」が重要だと思うのだ。結果的に乗り越えられなくったっていいけども、開き直ることによって捨て去るものがあるような気がする。大江は言及しなかっただけで必ずしもそれまで否定したわけではないかもしれないが。
どこか不格好で日々葛藤に苛まれても、なんとかその関係の中で生きてゆくしかない面があるということはその通りだろうが、往々にしてより弱いものにしわ寄せが行くということは共依存の内部においても例外ではないと思う。妥協が必要だとしても、十全な状況だと過信すべきでもまたない。
近親姦の被害にあった子は自己評価が低いと言われるが、昨日SM関係の個人ブログを見ていて、近親姦の告白(むろん作り話かもしれない)をしている自称マゾヒスト的な女性(twitterのフォロワーが1万人以上いてわりと有名みたいだ)がいて印象に残った。いくらか家庭の事情みたいなものを書いていて、より細かい生い立ちを訊いてみたい気もしたが、なんとなく空想が勝手に広がっていかないでもなかった。<基調として非共感的な父親。実母との死別(そう書いてあったわけではないが)のあとの父の若い後妻との再婚。>著しく低い自己評価と刹那主義の兆候がどこから来たのか、もし話がある程度本当なら、彼女は彼女なりの妥協点を見つけて生きているといえばそうのなかもしれない。しかしもうちょっとましな方法が決してないとは言えない...。
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